母子家庭の環境

学生時代のことです。私はある女性と付き合っていたのですが、その女性があることで悩んでいました。その悩みというのが、「妹のうつ」でした。

私の恋人は当時、幸い「うつ」ではなかったのですが、実は以前「うつ」の診断を受けたことがあるのだと言います。その原因と思われるできごとをいろいろ教えてもらいました。

その前に、彼女やその妹の生い立ちについて少し触れておくことにしますが、彼女の家庭は母親、彼女(当時22歳)、そして問題の妹(当時18歳)の3人暮らしで、いわゆる「母子家庭」という家庭環境でずっと暮らしてきたと言います。

彼女はうっすらと父親のことを覚えているそうですが、妹のほうはまったく記憶がないといいます。

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彼女が上京、妹と母親の二人暮らしスタート

で、その「原因」と思われるできごとというのは、母親がストレス障害のような症状を持っていた関係で、小さいころからずいぶんと彼女、そして妹に暴力をふるい続けてきたのだそうです。

そういうこともあって、姉妹はお母さんのことが怖くて仕方がないのだと言います。

ちなみに私は地元である東京の大学に通い、彼女は九州出身ということもあって、彼女ひとりでこちらに上京してきているというのが当時の状況でした。

そして、妹はただひとり、お母さんの元に残された形になっていたわけです。

小さいころから姉だけを頼りに生きてきた妹にとって、これは大きなショックだったようです。

そして、「母親とのふたり暮らし」という状況に対する激しい恐怖を訴え、しばらく沈静化していた「うつ」の状況が再発してきているというのが姉の「悩み」だったのです。

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妹の「うつ」

彼女の妹は、おそらく家庭環境という「後天的なうつ」であると考えられましたが、その症状は、「うつ」に見られる典型的な症状であったと言います。

唯一の姉である彼女にたくさんメールを送り、「死にたい」を連呼し、「不眠」、「過睡眠」、「倦怠感」、「各種恐怖症」などに悩んでいたと言います。

一度彼女は慌てて実家に戻ったことがあったのですが、そのときには睡眠薬を大量に飲んでしまい、緊急入院しなければならなかったという話でした。

そのときには、薬を大量に飲んだ記憶自体がまったくなく、



と姉に漏らしていたと言います。

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自分が頑張らなければ

彼女の妹が「うつ」を発症したのは、彼女自身が「うつ」を発症した高校2年生の当時とほとんど時を同じくした中学生1年生のころだったと言います。

彼女自身が「うつ」を発症し、妹に対して「死にたい」と言ってしまったため、妹は狂ったように泣きわめき、やがて妹自身も「うつ」の症状を呈するようになったそうです。

姉はそんな妹を見て、自分ががんばらなければ妹は死んでしまうかもしれないと考え、自分で「うつ」を克服したと言います。

これも姉妹愛のなせる業なのでしょう。今(当時)では、彼女はまったく「死」を願うことなどなく、妹が「うつ」を克服してくれることをただただ願っていたと言います。

妹の症状がかなり悪化したタイミングで、これはどうにかしなければならないということで、彼女自身が学校を辞めて実家に戻ろうかと悩んでいると告白されました。

正直それは私とって大きな衝撃でした。

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言ってはいけないことば

そのときから事あるごとに、私は彼女の、いや、彼女の妹の力になりたいと、そう申し出ていました

暴力こそふるたものの、ふたりのお母さんは女手ひとつで姉を大学までやったのですから、途中で大学を辞めて戻ったりしたら、今度はどんな暴力をふるわれるかわからない。私はそう考えたのです。

しばらくしてから、彼女は私にこう言いました。「妹とメールで話してみてほしいんだけど、無理かな?」と。

正直ちょっと戸惑いましたが、しかし私はそれで彼女が九州に戻らないですむのであればという思いから、彼女の依頼を受けることにしました

そのとき彼女は、「絶対に守ってほしいこと」として、私にある約束を取りつけました。

それは、絶対に「がんばれ」ということば(あるいはそれに類することば)を言わないこと、そして、もしも「死にたい」と言い出したら、絶対に突き放すような言い方をせず、「あなたが必要である」という気持ちを伝えること、このふたつだけは守ってほしいと懇願しました。

かつて「うつ」は、「怠け病」などと揶揄された時代もあったそうで、「がんばれ」と言われると、「うつ」罹患者は「お前は怠けているのだ!」と言われているような強迫観念に苛まれるそうです。

また、「うつ」罹患者の場合、症状の程度によっては「死」に対する恐怖心が希薄になるため、「死にたい」というタイミングで当事者を突き放してしまうと、本当に死んでしまうおそれもあるということです。それで彼女は私にそういう忠告というか、約束を取りつけたのでした。

「うつ」の波

姉は妹に、私を「信頼できる人だから、何でも相談しなさい」とアドバイスを送ったと言います。

確かに私は力になりたいとは言いましたが、考えてみればなぜ私にそんな役目を彼女は与えたのか、これは少しばかり疑問でもあり、不安でもありました。

それとなく訊いてみると、妹の「うつ」は、自分自身のそれよりも症状が重く(病院の診断は「軽度~中度のうつ」)、その関係で学校の友人は親友と呼べる中学時代の女子ひとりだけであり、とても自分自身の病気について相談できる相手はいなかったと言います。

私はなるほど、と思いました。そしてできる限り力になれるようにがんばると彼女に告げました。彼女は私の手を強く握り、涙ながらにありがとうと言いました。

徐々に妹とも打ち解けることができ、確かに姉の言う通り、夜中に「死にたい」というメールが繰り返されたり、寝てしまってメールに気づかないでいると「私はやっぱり死んだほうがいい?」といった内容のメールが執拗に送られたりと、これは



ただ、「うつ」にはどうやら「波」があるようで、平均的に「躁」と「うつ」の中間よりも「うつ」寄りの精神状態であることが多いですが、まれに「躁」のほうに精神状態が移行することもありました。

もちろんこれはメールの内容からの判断でしたが。そして、その「波」は、どうやら病院でもらってきている薬の影響が大きかったということが後になってわかりました。

つまり、「うつ」状態が深刻にならないように薬を飲み、その影響で精神状態が「躁」気味になるようにコントロールしていたのでしょう。

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「醜形恐怖症」の疑い

時間とともに徐々に打ち解けるようになり、それにつれて妹は自分の写真を送ってくるようになりました

お姉さんとはあまり似ていませんでしたが、しかし色白のとてもきれいなお嬢さんという感じでした。

どうしてこんなきれいな子がこんなに悲しい思いをしなければならないのか、誰に対する怒りとも悲しみともつかない気持ちになりました

しかし、妹が私に自分の写真を送ってきたのにはわけがありました。お姉ちゃんには絶対に内緒にしてねと前置きして、自分の顔写真をいろいろな角度から撮ったものや、顔だけではなく、身体の各部位も同じようにメールをしてきました。

私は半ば正直に「かわいいよ」とか「とてもきれいだね」とか言いながらも、やはり彼女のそういう行為に病的なものを感じずにはいられませんでした。そしてあるとき、上半身裸の写真を私に送りつけてきました。

私はその写真自体に驚きましたが、メールの文面を見てさらに驚きました。「本当のことを言ってね。私って、顔も身体もどこも魅力ないよね?」と、そう書いてありました。

後にも先にも、若い女性の裸を見てこんなに暗い気持ちになったことはそのとき以外にはありません

そして、続くメールで同じように下半身を脱いだ写真を送りつけ「死にたい、死にたい、死にたい、どうして私はこんなに醜いの?醜いでしょ?死にたい、死にたい・・・」と、メールに書いてありました。

後で知ったことなのですが、これは



であり、「自分が他者よりも劣っているのではないか」という恐怖心から感情のコントロールを失ってしまうのだそうです。そして、これは「うつ」罹患者にとても多いということでした。

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